*大学生風間くんと中学生ひまわり
偶然、ひまわりちゃんに会って飲み物をたかられて近くのカフェに入って。
三ヶ月ぶりだねーなんて何気ない会話してたのに、
「風間さんはロリコンなんでしょ?」
突然そんなことを言い出した彼女に、僕は口に含んでいたコーヒーを盛大に吹きだしそうになった。
すんでのところでそれを抑えることに成功した僕は、げほげほと荒々しく咳払いして自分を落ち着かせる。
一体誰に言われたんだろうか、いや、しんのすけに違いない。
だって彼女はあの野原しんのすけの妹なのだ。
「お兄ちゃんがね、風間さんはアキバ系オタクでロリコンだから気をつけてねって」
誰がアキバ系オタクだ、誰が…と言いたいところだけど、アキバ系オタクの皆さんと交流がある僕としては、
そんなツッコミできるはずもなく。
でもそんなことを認めるのは、表向きの僕のプライドが許せない。
だって僕は世間体はすごく気にする性分だから。
「ひまわりちゃん、僕はオタクでもないし、ロリコンでもないから心配しなくて大丈夫だよ」
どうせ大方しんのすけに、「風間くんに襲われないように気をつけてね」とか言われたんだろう。
全く…心外だ。
ひまわりちゃんのことは、好きだけど。友達の妹に手なんか出すはずないのに…。
というか、僕って手癖悪く見られてるのか!?
「僕って紳士には見えない?」
「うーん、大学生にもなって少女アニメ見てる男の人を紳士と呼んでもいいものなのやら…」
「…」
しんのすけめ…!
一体どこからどこまで話たんだ!?
それにしてもひまわりちゃん…そういう言い回しがしんのすけそっくりで僕は少し悲しいよ…。
「僕はオタクじゃない」
「アキバ系でしょ?」
「僕はロリコンでもない」
「じゃあ変態?」
「…」
一瞬、ほんの一瞬だけ、ひまわりちゃんとしんのすけがぴったりと重なった。
ひまわりちゃん、しんのすけみたいなその不気味な笑い方は止めたほうがいいよ…。
「あのね、僕にそういう趣味はありません!いちいちしんのすけの言うことを鵜呑みにしなくていいから」
「そういえば明日から『大魔法使いもえりん』が始まるわね」
「そうそう!ネット情報によると『もえりん』のキャラデザが最高なんだよ!愛らしい容姿がお人形みたいで
、でも幼いわけじゃなくってさ〜!」
「毎週録画は欠かせないね」
「そうだね!声優も豪華らしいし、仲間内ですごく盛り上がってって………う゛、」
「へーぇ…」
昔から自分で墓穴掘っちゃう癖は治らなくて、もう言葉に出してしまったものはしょうがない。
僕は咳払いして一口だけ残っているコーヒーを飲み干した。
「ひまわりちゃん、次は何食べたい?」
「あーら、お構いなく。口止め料ならいただきませんわ」
…しんのすけより手強いな。
もう飲み干して氷しか入っていないひまわりちゃんのグラス。
彼女はストローで氷をかき回しながら、まるでネネちゃんが人の弱味を見つけたときのような笑みを浮かべた。
「風間さんってロリコンってわけじゃなくて、ただロリコン気味なオタクなだけなんだね」
「…ど、どうすれば黙っててくれるかな?」
「そうね〜」
唇に指を当てて考えるひまちゃん。
あーあ、ひまちゃんってすっごく可愛いのになぁ。
よくネネちゃんと買い物行くらしいから、多分ネネちゃんの影響も強いんだろうなぁ。
…小悪魔か…、
まあ悪くないけど…って、何を考えてるんだ僕は!
「風間さん?」
「へっ、何!?」
「あのね、時間が合うときにひまの学校の送り迎えしてほしいなー」
「…え?そんなことでいいの?」
なんか意外だ。
すごいこと吹っ掛けてくると思ったのに。
でもひまわりちゃんはすごくニヤニヤしてる…。
「ひまモテモテだから、いつもは男の子に迫られて大変でさ〜」
「ま、まあひまわりちゃん、可愛いもんね」
「そこで、オタクという点を除けば爽やかでイケメンの風間さんに登下校守ってもらおうと思うの。ニセ彼氏、
みたいな」
…一言多いよ。
「うーん、まあそんなことでよければ構わないけど」
登下校中はひまちゃんの騎士ってわけか。
でも良かった。
宝石買えって言われるより大分マシだもんな。
「もちろん、フリとはいえ登下校中はひまの彼氏なんだから、恋人っぽくしてよね」
「どんな風に?」
「そりゃあもちろん帰りにパフェ奢ったりーたまにプレゼントしたりー、とにかく色々!」
…そんなに甘くないってか。
キラキラと瞳を輝かせるひまわりちゃんは可愛いけど、これからのことを思うと可愛さ余って憎さ100倍かも。
あーあ、出費激しくなりそう…フィギュアとかDVDとか買うお金貯めないとなぁ…。
がっくし。